東京都旧跡、指定解除検討報道に驚く
『読売新聞』本年8月11日記事によれば、東京都が旧跡に指定した場所230件のうち、約9割が根拠に乏しいとして、指定解除を視野に入れて、総点検を進めている由です。
http://www.yomiuri.co.jp/tabi/news/20050811tb03.htm
見直し対象になっているのは、お岩さんの稲荷、将門首塚(写真)、赤穂浪士切腹の地・熊本細川家江戸屋敷跡、乃木希典生誕地など。
仰天です。
記事以外の情報を入手していませんし、検討委員会のメンバーがどなたかも存じ上げないのですが、事実ならちょっと待ってください、という思いです。
根拠に乏しい指定地を解除ということですが、では根拠の豊かな史蹟ってどれほどあるといわれるのでしょう。
そもそも何を根拠といわれるのでしょう。
考古学の発掘調査でしようか。
文献史料なら、いつまでさかのぼれるものが存在すると根拠豊かになるのでしょうか。
とりわけ赤穂浪士の史蹟の指定解除理由が問題。
同史蹟はいま都内10カ所に及び、1918~42年に指定を受けた。
この時期が治安維持法、国家総動員法の制定とも重なり、国策にともなう政治利用と思われるから、
だそうです。
そんなこといえば、戦前の国史蹟指定地の多くが政治利用の可能性があります。
京都府で言えば、「方広寺石塁及び石塔」、「御土居」など、豊臣秀吉関係紀念物が史蹟指定されています。
それは、朝鮮の植民地化を実現していた当時、約350年前、その出兵を進めた秀吉を、先駆者として評価したという解釈が可能です(高木博志さんのご研究による)。
この2つは指定解除すべき対象になるのでしょうか。
それとも、こちらはモノが存在するから根拠があるといわれるのでしょうか。
しかし、指定にあっては双方とも発掘調査を実施したわけではない。
たしかに方広寺跡は、最近の発掘調査によって遺構が確認されていて、指定の正しさが実証されているといえるのでしょう。
でも石塔(耳塚)は未調査です。
「御土居」も指定地は全く未調査です。
指定地の土塁と堀が豊臣期に構築された根拠は何もありません。
もし文化庁が都の姿勢を模倣すれば、「稲村ヶ崎(新田義貞徒渉伝説地)」(神奈川県)などの南朝史蹟はまちがいなく対象となると思います。
「太平記」の「伝説地」でしかありませんから。
「楠木正成墓碑」(兵庫県)も水戸光圀の建立した墓碑が指定されたことになっていますが、これも水戸光圀の史蹟ではなく、南朝史蹟として指定を受けたことは確実です。
近世建立のモノがあるとはいえ、これも戦前の政府の政治利用であると十分いえます。
岐阜県の関ヶ原古戦場は最大の指定面積をほこりますが、そのうちには例えば「徳川家康初陣地」「最後陣地」なんてのが指定名にあります。
でもこれってどうして実証できるのでしょうか。
百歩ゆずって、都の検討委員会の「根拠」の基準というものが仮に妥当なものとします。
それでも指定解除はすべきではない。
そういった記念物の多くは、指定以前から史蹟として地域に根づいていたものでしょう。
仮に伝説が歴史事実を伝えたものでなくても、地域や研究者がその由緒を大事にして、現在まで残してきたという「事実」があります。
そういった「歴史意識」はいま、近世史、近代史の研究の大事なテーマになってきています。
「史蹟」として伝承されたものの研究です。
(例えば羽賀祥二『史蹟論』、羽賀祥二・若尾祐司編『記憶と記録の比較文化史』、白井哲哉『日本近世地誌編纂史研究』など)
指定解除はそのことを否定し、将来にあっては、解除された場所が現状を改め、最悪壊滅する日がくるはずです。
戦前に指定された「明治天皇行在所」「御小休所」(いわゆる明治天皇聖蹟)370ヵ所は、戦後GHQによって、いっせいに指定解除を受けました(1948年6月29日)。
占領解除後も、再指定を受けませんでしたが、指定解除を受けたため消失した場所もあったはずです。
指定解除を受けた「聖蹟」の多くは、天皇が訪れた寺社や豪農屋敷など、いわば地域の中心地でした。
「天皇聖蹟」でなくとも、地域にとっては大事な建造物や場所ではなかったのでしょうか。
これらは消失してもよかったと本当にいえるのでしょうか。
ある時期の指定理由に問題があったとしても、安易な指定解除は、かえって史蹟破壊につながり、後世に問題を残します。
重ねていいます。
新聞記事が正しいのなら、東京都指定旧跡の指定解除を前提とした点検作業に、反対をいたします。
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コメント
Tauさん
はじめまして。
ようこそお越しくださいました。
史蹟指定解除の件、ご賛同ありがとうございます。
リンクの件、問題ありません。
どうぞよろしくお願いします。
ご同業者ですね。
きっといつかどこかでお目にかかると存じます。
その節はどうぞお声をかけてください。
投稿: 中村武生 | 2005.09.08 01:04
中村武生様
私は関西圏内の大学院で、近現代史を学んでいる者です。先生のブログはいつも興味深く拝見させていただいています。指定解除のお話は本当に先生のおっしゃる通りで、私も最近、歴史意識や、歴史の記憶に目を向けるようになりました。ネットを通じて、様々な分野の研究者の方々の興味深いお話を勉強させていただくことができることに、感動しております。(というのも、最近ブログを始めたので、初心者です)私はまだ研究の方向性にも試行錯誤な毎日で、お恥ずかしながら本名を名乗れるような者ではありません。名乗らない失礼をお許しくださいませ。また非常に勝手ではありますが、先生のブログをリンクさせていただいてもよろしいでしょうか??
投稿: Tau | 2005.09.07 14:08